
こんにちは。パン職人であり、ライターの中村ことはです。
パンには、焼きたての香りだけではなく、土地の記憶や季節の気配、人の手しごとが静かに宿っています。
そして、そんな背景を知るだけで同じパンでも味わい方がふっと変わる。
パン好きなら、一度は感じたことがあるかもしれません。
そんな“パンの奥行き”を、浜松在住のパン職人×ライターの私が、毎月そっとお届けする連載コラム。
読み終わったら思わずパン屋さんへ寄り道したくなる──そんな世界へご案内します。
“職人の本音”をちょっぴり紹介
1月は少しだけ“職人の本音”をご紹介します。パン職人が、実はこっそり楽しみにしているパンのお話です。
「焼き立てが一番」とは限らない?
「〇〇焼き立てです!」
パン屋さんでこんなコールが聞こえてきて、思わず手にとってしまった経験はないでしょうか?
確かに、今まさにオーブンから出たばかりのパンは魅力的ですよね。こんがりとした焼き色に、立ち上る湯気、ふわっと漂う香り。私もよくコールをするんですが、次から次へと手に取ってくださるのを見ると嬉しくなります。(そして商品名で噛むまでが定番…だって、名前が長くて言いにくいんですよ…)
しかし、種類によっては翌朝のほうがおいしいと感じるパンがあるんです。
私が「2日目のパン」に目覚めた日

私が「2日目のパン」に惹かれるようになったきっかけは、パンドカンパーニュでした。
フランス語で「田舎のパン」という名前のこのパンは、華やかさはなくともどっしりとした貫禄ある姿が特徴。
パリの人々が田舎を懐かしく思って名付けたと言われています。
一人で食べるには少し大きく、どうしてもその日のうちに食べきれず、翌朝まで持ち越したことがあったんです。
焼きたてももちろんおいしい。
でも、冷めて水分が落ち着いた翌朝のひと切れは、まったく違う表情を見せてくれました。
小麦粉や全粒粉のやさしい甘み。
天然酵母ならではの、少し複雑で奥行きのある香り。
そして、ほんのり感じる酸味。
「あれ、こっちのほうが好きかも」
そう感じたのを、今でもよく覚えています。
それ以来、私はカンパーニュを焼いた日は、焼きたてと翌朝、両方を味わうようになりました。
同じパンなのに、時間が変わるだけで、こんなにも印象が違う。それが、パンの面白さだと思ったからです。
この体験は、私がリッチなパンよりも、粉と水と塩、そして酵母でできた“リーンなパン”を好きになった原体験でもあります。
組み合わせで広がるパンの世界

その後、いろいろな国のリーンなパンを食べるようになり、特に好きになったのが、ドイツのロッゲンミッシュブロートです。小麦よりもライ麦の割合が多いこのパンは、噛むほどに酸味と穀物の旨みが広がります。
薄くスライスしてそのまま食べてももちろんおいしいのですが、私の一番のおすすめはチーズやハムを合わせたオープンサンド。酸味が苦手な方でも、乳製品や加工肉と合わせることで、驚くほど食べやすくなるんですよ。
私は、薄くスライスしたパンに生ハムをのせ、その上から少しだけはちみつを垂らす食べ方にはまっています。生ハムの塩気と、はちみつの上品な甘さがクセになるんです!
……とはいえ、私にとって贅沢品なので、そんなに頻繁には食べられません。特別な日のご褒美パンですね。
焼きたてだけじゃないパンの楽しみ方

焼き立てのパンはおいしい。私もそう思います。
けれど、パンと向き合う時間は、いつも焼きたてでなくてもいいとも思っています。
時間の経ったパンにもおいしさは宿っているからです。
焼きたてを味わった後、翌朝もゆっくり楽しむ。
すると、味も、香りも、気持ちも、どこか落ち着いている。
同じパンでも時間が変わるだけで、印象は驚くほど違います。
さぁ、明日の朝、あなたはどのパンをどうやって食べますか?
合わせるのはコーヒー、それともスープでしょうか?
バターをのせるか、ジャムにするか…
サラダをパンに挟んでサンドイッチにするのもよさそうですね。
そんな想像をしながら買うパンは、きっといつもより少し特別になるはず。
焼きたてだけじゃないパンの楽しみ方、ぜひ一度試してみてくださいね。
中村ことは(パン職人/ライター)

2008年、東海調理製菓専門学校を卒業後、大手ベーカリーに入社。関東の個人店へ転職し責任者を務めるも「パンが主食の国で生活したい」という夢を追い、2019年フランスへ。留学中にコロナ禍となり帰国。再び関東のベーカリーへ就職するが、仕事中のぎっくり腰をきっかけにライター業をスタート。2022年浜松へUターンし、現在は市内のパン屋さんで働きながらフリーライターとしても活動している。“2足のわらじ”で、自分にとってのワクワクする働き方を模索中。
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