
こんにちは。移住ライター兼作家の瀬口あやこです。
この連載では、静岡でアートに情熱を灯している人たちの姿をお届けすべく、私自身が見たもの・聞いたものをつづっています。
今回訪ねたのは、静岡県浜松市で染色の体験教室を開く、Atelierクレマチスさん(以下、クレマチスさん)。

タイダイ染め、夢絞り、絞り染めなど、さまざまな染めの技法を駆使し、目にも鮮やかな作品を手がける染色アーティストです。
浜松に移住して約4年半。染色と人生、そしてこの土地の印象について聞きました。
染色との出会いは、ワインレッドのドレス

仏教の布教師としてブラジルに移住した両親のもとに生まれた、クレマチスさん。染め物に触れたきっかけは、北海道に住む叔父さんを頼って来日後、中学生のときでした。
「当時、ワインレッドのパーティードレスを買ってもらったのですが、それが染め物だったんです。いまでも大切に残しているほど、本当にお気に入りで。手染めでしか表せない絶妙な色合いで、染め物ってすごいなと思ったのを覚えています」
進学した北海道の短大では染色科を選択。卒業後も専攻科に残り、丸3年、どっぷりと染めの世界に浸ります。
専攻科修了後は、2年に1度、大学のOG展に出品し続けました。
染色は、いつもクレマチスさんの傍らにありました。
結婚後、子どもが独立し、北海道での生活にひと区切りついた年。
クレマチスさんは「やりたいことをやろう」と思いたち、上京を決意しました。
東京で見つけたのは、染料メーカーの「手芸インストラクター募集」の求人。仕事内容を詳しく聞いてみると、染め物の体験ワークショップを担当する仕事でした。学生時代から積み重ねてきた染色の知識と経験が、思いがけないかたちで活きた瞬間です。
染料メーカーで約4年弱を過ごしたのち、今度は弟さんを頼って浜松へ。
移住先が静岡県だったことに、クレマチスさんはふしぎな縁を感じているそうです。
「北海道にいたころ、『歳を取ったら暖かいところに住みたいな。できれば静岡あたりで』なんて話していたの。そうしたら、本当に住むことになって。言葉にすると叶うと言うけれど、現実になるなんて思いもしませんでした」
浜松では、染色の体験教室を中心に活動。コロナ禍での移住だったこともあり、最初は集客に苦労した時期もあったそう。
ですが、クレマチスさんの丁寧でわかりやすい指導のもと、美しい作品をつくることができるワークショップは、いまでは幅広い年代の参加者に親しまれています。
失敗なんてない、と伝えたくて

お客さんと接するうちに、染色への向き合い方も変わってきた、とクレマチスさんは話します。
「昔は作品づくりを難しく考えていたときもありました。でも、自分で教室を開き、特に子どもたちに教えるようになってから気づきました。『失敗なんてないんだ』って。
子どもは、色を決めるのも模様を選ぶのもとにかく早いんです。でも、大人は余計なことを考えてしまう。つい『きれいにつくらなきゃ』『実用的なデザインにしなきゃ』って正解を探すから」
「でも実際は、どんな染め方をしてもいいし、できあがったものがその人だけの正解です。そしてそれは、人生も同じかもしれない、と最近よく思うんです。どんな道を歩んでも、間違いではないんじゃないかって」
「悩まなくても大丈夫」「気に入らなければやり直せます」クレマチスさんがワークショップのなかで伝えることばは、自身が時間をかけてたどり着いた答えでもあるようです。
浜松で重ねた色を糧に、新天地へ
「お金があったらここに家を建てたい!と思うくらい、浜松のくらしは良いものでした」とクレマチスさんは微笑みます。
雪かきのない冬、都会すぎず田舎すぎないほどよい利便性、移住者を温かく受け入れてくれる人柄。なかでもいちばんの収穫は、出会った人たちの多彩さだったといいます。
「いままでは、染色関係の人たちとのつながりはあっても、それ以外は限定的でした。でも浜松では、いろんなアーティストさんと交流する機会があって、たくさん刺激をいただきました。気軽に参加できるマルシェなど、クリエイターが活動しやすい土壌も浜松ならではだと思います。本当に、幸せな時間でした」
そんなクレマチスさんも、この春、北海道・釧路へ戻ることとなりました。ですが、浜松で始めたワークショップは今後も継続し、新たな土地でも染色体験を届けていく予定です。
いろんな色が出会い、幾重にも重なって新たな彩りが生まれるように。北の大地で、クレマチスさんの新しい物語が始まります。
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