
こんにちは。移住ライター・作家の瀬口あやこです。
この連載では、静岡でアートに情熱を灯している人たちの姿をお届けするべく、私自身が見たもの・聞いたものをつづっています。
今回お話を伺ったのは、ゾウをモチーフにした作品を多く手がける、画家の中島由夏(なかじまゆか)さんです。
ゾウを描くようになったきっかけはなんだったのか。そして、自身の経験がどのように影響を与えているのか。作品への想いを聞きました。
すべては、あのゾウとの出会いから
小さいころから絵を描くのが好きだった中島さん。進学した地元・関東の大学では油絵を専攻します。
当時は「特に描きたいものがなかった」のだそうですが、仲良しの同級生と気分転換に出かけた動物園で、運命的な出会いを果たします。
「ゾウの檻の前へ行くと、ちょうど2頭が鼻を絡めてじゃれあっているところでした。『かわいいな』と眺めていたのですが、ふと足元を見ると、彼らの間には数メートルの深い溝があり、鼻以外は決して触れ合えない状態だと気付いたんです」
ゾウたちに切なさを感じた中島さんは、心に焼き付いたその光景を卒業制作のテーマに選択。これが、ゾウを描き続ける原点となりました。

作品と向き合うなかでよみがえってきたのは、11歳のときの記憶。家族旅行で訪れたタイでの「ゾウ乗り体験」でした。
「手や足に触れる皮膚は、想像以上にざらざら・チクチクしていて。ゾウが私を乗せて立ち上がると地面が急に遠くなって驚きましたが、なんだか優しさが伝わってくるようで不思議と怖くはありませんでした。
乗馬体験をした回数のほうが多いはずなのですが、深く印象に残っているのはゾウの記憶。だからこそ作品を描く際には、ゾウの皮膚感の再現に強いこだわりがあります」
タイで触れたゾウの感覚を手繰り寄せるように。いまでは砂や和紙なども取り入れながら、躍動感のあるゾウの姿を描き続けています。
「家族」という新たなモチーフが、作品づくりの源に
一頭一頭からやさしさが伝わってくる中島さんのゾウたち。作品ごとに「身近な誰か」を想像しながら描くこともあるのだとか。
浜松に移住してから合同展示会のために制作した作品は、甥っ子さんと娘さんが仲良く並んでいる姿を子ゾウになぞらえて描いた一作です。

その娘さんが3年前に生まれたことも、作品に大きな影響を与えています。
「今年の6月に東京で個展を開催したとき、いつも応援してくださっているお客様が、産後に描いた私の作品を見て『絵がすごく変わった。母性を感じるね』と言ってくださって。私自身は母性愛をテーマに描こうとは思っていないのですが、そんな風に感じてくださる方もいるんだと知ったことはうれしい気づきでした」
体験したできごとは無意識に絵に出るのでしょうね、と微笑む中島さん。以前と比べても、作品との向き合い方が変わってきたと話します。
「若いころの絵を見ると、すごくエネルギーを感じて、もう一度あんな情熱が伝わる絵を描きたいという気持ちになります。でも一方で、いまの私にしか描けないものもあるのではと感じています。
昔は頭の中にあるものだけで描いていた感覚がありましたが、家族ができてからはより深く考えながら作品づくりをするようになりました。今後も、たとえば子どもが成長して新たな経験をしたら、また絵も変わっていくのかも、と思っています」
浜松からさらに広がる、中島さんの表現世界
浜松に移住して約2年。定期的に展示を行っている関東のギャラリーは遠くなってしまいましたが、新たな土地でも作品を通して多くの出会いがあり、有意義な時間を過ごしています。
「移住当初は右も左もわかりませんでしたが、地元アーティストが集まる合同展示会に参加したことで人脈が広がりました。
関東にいたときは、お付き合いのあるギャラリーで展示するのみで、自分でイベントに出るようなことをしてきませんでした。なので、同世代のアーティストさんと知り合って、一緒に頑張ろうねと励まし合える雰囲気は、すごくありがたいなと感じています」
最近は、作品を見た方からの「グッズを作ってみたら?」という声に応えて作品をプリントしたTシャツを制作。個展で販売したところ、好評を博しました。今後も展覧会などのイベント販売や、ネット通販も考えているのだそう。「気軽に持ち帰ることができるものとして、手に取っていただけたら」と中島さんは話します。

ライフステージの変化も制作の糧にしながら、自身の描きたいものを探求し続ける中島さん。
最新の出展やグッズ情報は、ぜひInstagramをチェックしてみてください。
今後もどのような作品が生まれるのか。広がり続ける中島さんのゾウの世界に目が離せません。
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